注目トピック
改修工事とは?工事の種類や修繕工事との違いを解説
改修工事とは?工事の種類や修繕工事との違い
改修工事とは、建物の設備や仕様を時代やニーズに合わせてアップグレードし、より快適な住まいづくりを目指すものです。
サッシを交換し複層ガラスにしたら遮音性が高まり外の音が気にならなくなった、断熱性能が向上し結露が減った、など効果が目に見え、居住者の満足度が高まるのが改修工事。一方の修繕工事は、タイルの浮きを補修する、錆を落として塗装を塗り直す、金具を取り替えるといった“マイナス部分をゼロに戻す”ことが中心となり、改修工事と比較した際にその成果に気付きにくいかもしれません。修繕工事はアップグレードの余地は少ないものの、マンションの維持管理に欠かせないメンテナンスです。
改修工事の種類
改修工事の種類は国土交通省のマニュアルによると主なもので32項目あります。
建築関係では、
(1)鉄・アルミ部等塗装
(2)躯体改修
(3)外壁仕上げ改修
(4)シーリング改修
(5)屋根防水改修
(6)床部改修
(7)ドア改修
(8)サッシ改修
(9)金物類改修
(10)屋外鉄骨階段改修
(11)内壁・内装改修
(12)エントランス改修
(13)浴室防水改修水
―などがあります。
外壁仕上げ材をグレードアップ(出典:国土交通省「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」)
機械設備では、
(14)給水設備改修
(15)排水設備改修
(16)消火設備改修
(17)ガス管改修
(18)給湯設備改修
(19)冷暖房設備
(20)換気設備改修
―など。
電気設備では、
(21)電灯幹線・動力設備改修
(22)照明器具・配線器具改修
(23)情報通信設備改修
(24)テレビ共聴設備改修
(25)防災設備改修
(26)避雷設備改修
―など。
夜間照明を明るく(出典:国土交通省「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」)
その他の設備では、
(27)エレベーター設備改修
(28)機械式駐車場
―などの項目があります。
改修工事のメリット
改修工事では建物を新築時の状態に戻すだけでなく、使用する材料をグレードアップしたり新たな機能を付加したりすることで住まいをより快適に整えます。資産価値を向上させ、次の修繕までの期間を延ばすことも改修工事の目的です。
それでは早速、首都圏にあるマンションの改修事例を見てみます。株式会社ヨコソー横浜支店長/上嶋剛(写真左)と統括工事部長/藤野隆史(同右)に話を聞きました。
■屋上の改修
屋上防水は建物の寿命に直接影響する重要な工事です。
マンションにおいて主な施工方法は①ウレタン塗膜防水②アスファルト防水③塩ビシート防水―の三つ(※2)。国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインでは屋上防水の修繕周期を「12~15年」としていますが、1回目の大規模修繕で全面撤去が必要なほど劣化した例は少なく、部分補修や端部に金物を追加して機能を向上するなどの対応が多くなります。その後、2回目の大規模修繕以降、特に築40年を超過したマンションでは、既存の防水を撤去して全面的にやり直す必要があります。
やり直す際の工事では、既存の防水と同じ工法で行うのが基本ですが、劣化状況によってはコンサルタントや施工者から変更を提案する場合があります。
例えば、雨漏りが頻発するマンションであれば、ウレタン塗膜の上にシートを貼り付けるグレードアップ改修が望ましく、機械設備や配管が複雑に配置されている屋上は、シート防水より液状の防水材を塗り重ねる工法が適していることがあります。いずれの工法でも屋上に据え付けてある設備や配管をいったん撤去して全体をがっちり防水するので、建物の長寿命化に直結します。また、防水層を全面撤去する際はその下の断熱材も撤去するため、より高性能の断熱材で復旧すれば、屋上直下にある住戸の断熱性が向上します。
屋上防水が劣化する原因は主に紫外線によるものなので、大規模修繕で定期的にメンテナンスすることが不可欠です。紫外線のほかに泥や土埃がたまる、たまった土に雑草の種が根を下ろすなど、メンテナンス不足でも劣化します。大きく育ってしまった雑草を引き抜いたら、根っこの部分が大きな穴となり、そこに雨水がたまって漏水につながった―という例もあります。建物に異常を発見したら、管理会社がいる場合は早めに連絡して対応を相談しましょう。
植物の根が広がると思わぬ不具合の発生することも
屋上緑化
都市空間を美しく潤いのあるものにするため、新築時に屋上に花壇や菜園を整備したマンションや壁面を緑化したマンションがあります。国土交通省がまとめた「令和4年 全国屋上・壁面緑化施工実績の調査」によると、令和3~4年に屋上緑化を施工した建物のうち、住宅や共同住宅の占める割合は14・7~18・2%でした(暫定値)。
出典:国土交通省「令和4年 全国屋上・壁面緑化施工実績の調査結果」
これらのマンションが大規模修繕で屋上防水をやり直す際は、花壇や菜園の樹木や草花、土をいったん全て搬出する必要があります。防水工事の完了後に元通りの緑化を復旧するのですが、先々のメンテナンスや漏水発生のリスクを考えた結果、緑化をやめ、フラットな屋上にしておくことを選ぶマンション管理組合も少なくありません。
再び緑化する場合は、防水層の上に防根シートを敷いて植物の根が建物を貫通するのを防ぐ改修や、ユニット型の部材を設置する方法、架台の上に花壇を整備する、などの改修が可能です。屋上の利活用頻度を考慮し、居住者の意見を聞きながら総合的に検討しましょう。
太陽光パネル
地球温暖化対策では屋上緑化の他、太陽光発電パネルや太陽熱、雨水利用設備を設置するなどの取り組みがあります。公共施設や一戸建て住宅の屋根によく見られますが、分譲マンションでの設置例は、新築時を除くとほとんどありません。設置する場合は大規模修繕を念頭に、設備を床面に直置きするのではなく、架台の上に設置して防水層を守る工夫が必要です。
■庇の設置・改修
正面玄関や窓の上に取り付ける庇(ひさし)には、建物のデザイン性をアップさせるだけでなく雨除けや雪除け、日除けの機能があります。正面玄関の他、建物の裏側通用口やゴミ集積所の出入り口、駐車場の操作盤部分など、ちょっと立ち止まる場所にも庇があると意外に便利なもの。荷物が多い時や車いすを利用する方の利便性を向上させるバリアフリー化改修の一つでもあります。
庇を後付けする場合はボルトで壁に取り付けるタイプの施工例が多く、スッキリした外観で費用も抑えめ。外壁のない屋外空間では、柱の基礎を立てて自立式の庇を設置します。(自立式の場合は建築確認申請が必要です。)
いずれも大規模修繕際に一括して施工できますが、足場が取れた後に着手することになるので、任意のタイミングでの設置も可能です。
建物と駐車場の通路に庇を設置
■スロープの設置・改修
建物内の段差部分やエントランスにスロープを付けることで、日常の移動がスムーズになります。スロープの勾配には基準があり、屋内で1/12(約4.7°)以下、屋外では1/15(約3.8°)以下と定められています。長いスロープには途中で踊り場を設けることも求められます。
施工例を見てみます。
3回目の大規模修繕を迎えたAマンションは築36年の建物です。居住者の高齢化も進んでおり、理事会では正面玄関と道路の間にある3段の階段をスロープに改修することを決めました。高低差は約50センチ。12分の1の勾配にするためには、高低差の12倍の長さである約6メートルのスロープが必要です。しかし、正面玄関と道路との距離は約3メートルと短く、直接道路に向けてスロープを付けると勾配がきつくなってしまいます。そこで、玄関脇の植栽スペースを半分活用し、横方向から迂回するスロープを取り付けることにしました(写真)。スロープには手すりを設け、床は滑り止め効果のある明るい色のタイルを貼って安全性を高めています。費用の一部に地元自治体のマンション・バリアフリー化等支援事業の補助金を活用し、工事総額を予算内に収めることができました。
車いすの利用だけでなくスーツケースを運ぶ時や荷物の台車、ベビーカーの利用も便利になったと好評です。
横方向に取り付けたスロープ
■手すりの改修
バリアフリー化改修の一環で階段や廊下にも手すりを設置すると、子ども連れの方や車いすで移動する方にも喜ばれます。一般的な手すりの高さは床から75~85cm程度ですが、車いす利用には60~65cm程度が適しています。手すりは建物ごと・設置場所ごとのオーダーメイド。2段の手すりをつけるなど、居住者の意見を聞いて決めるのが良いでしょう。
■LED照明への改修
共用廊下や外灯などをLED照明に省エネ改修するマンションが増えています。エントランスロビーのように天井の高い位置にある照明は、大規模修繕の天井改修で足場を掛ける際、同時に器具を交換することができます。
~ヨコソールールのご紹介 ~
弊社で天井を塗装する際は、現在設置している照明器具をいったん外し、器具の裏に隠れてしまう部分まで均一に塗り込むことをルール化しています。こうすることで、将来一回り小さいサイズの照明器具へ交換したい場合でも、器具の周囲に“塗り残し”が現れる心配がなくなり、塗装作業の負担を軽減できます。
■ゴミ集積所の改修
敷地内のゴミ集積所。集まったゴミ袋にネットをかぶせていても、カラスやネコに荒らされたことはありませんか。夏場に発生しやすい生ゴミの臭い対策や強風・荒天への備えも考えましょう。
- 折り畳み式のボックス型ゴミネットを設置
- ゴミコンテナを設置
- 集積所の周りをフェンスや塀で囲む
- 鍵のかかるゴミステーションを整備
このような改修により衛生環境の改善が期待できます。
ゴミ集積所にはマンションの管理状況が現れます。常に整理整頓されていれば、居住者の〝きれいに使いつづけよう〟とする意識が高まり、よりきれいになれば資産価値も向上します。
集積所の有効面積や構造、屋根・扉に関しては、各市町村で設置基準を定めています。改修する場合は事前に自治体窓口に相談しましょう。
■インターフォン・防犯カメラの改修
マンションのインターフォンは、2回目または3回目の大規模修繕で交換することが多いようです。器具が劣化し接触不良などの不具合を解消する他、カメラ付きの高機能タイプに改修することも可能です。改修と同時に敷地内のカメラを増設し、防犯環境をアップグレードする、といった防犯対策強化を行うのも良いかもしれません。工事は全戸一斉、各戸に入室するため、大規模修繕のタイミングにまとめることで居住者の負担感を軽減できます。
エントランスのインターフォンをカメラ付きに改修し、住戸玄関口は居住者がカメラの有無を選択したマンション。左が音声のみ、右がカメラ付き
■排気ダクト内の清掃
室内の空気を入れ替える換気扇などのガラリ(通気口)は外壁の上部に設置され、日常のメンテナンスが難しい設備の一つ。台所と洗面所系の換気扇/換気ダクトは専有部分に当たりますが、計画的な清掃が必要となることから、国土交通省では“管理組合として指導することが望ましい”としています。大規模修繕で外壁に足場を設置している時なら、ガラリを外してダクトの奥までのオーバーホール(清掃)も容易です。開口部の汚れやハウスダストが気になる場合、特に気密性の高いマンションでは、不具合が発生する前に点検することをおすすめします。
さまざまな改修事例の中には法令上の制限があり、自治体との事前協議が必要なものもあります。
例えばスロープの設置工事では、花壇の位置にある下水道施設(マンホール)をスロープの表面までかさ上げする必要があったり、道路境界線からマンション縁石まで一定規模の空地を設けるルールがあったりしました。
一方、バリアフリー改修や省エネ改修では、年度により国や自治体の補助を受けられることがあります。着工から完了までの期日に制限や要件がある他、希望者が多いと抽選になることもあるので、施工者と綿密に打ち合わせた上で申請しましょう。
ヨコソーでは工事に先立つ自治体への各種申請手続きを一括して承り、補助事業への申請も代行します。お気軽にご相談ください。
株式会社ヨコソー横浜支店長/上嶋剛(左)と統括工事部長/藤野隆史に話を聞きました